エストニア共和国より愛をこめて

北欧の小国に留学中の大学生が当地への留学や観光、社会生活についての情報などをお届けします

ネイティヴと非ネイティヴの立場が逆転した英語世界でいま起こっていること

ネット上の英語学習関連のサイトを覗いてみると、

「ネイティヴならこう言う! 日常会話で使える表現」

とか、

「使えるとカッコイイ! アメリカ英語のスラング

といった、「インフォーマルな場面のみで使われる会話例文集」の類がたくさん見つかりますが、「実用的な英語を勉強したい!」という人は、そういったマニアックな知識の習得は後回しにしたほうがいいですよ

なぜかというと、現在の世界の英語話者のうち7割が「英語を第二言語(もしくはそれ以降の言語)として使用している英語話者(=非ネイティブ・スピーカー)」だからです[1]。

「ネイティヴはこう言う!」みたいな本やサイトで紹介されているのは、大抵は北米特有の俗語や若者言葉の類ですから、おもに学校教育によって第二言語として英語を身に着けた人たちには通じない場合があるわけです(もちろん『北米の若者映画やTVドラマが大好きで、砕けた英語表現に詳しい』という人も多いでしょうが)。

むしろ世界で起こっているのは、

「英語の運用において、ネイティヴ・スピーカーの側が、非ネイティヴ・スピーカーにあわせて妥協をせざるを得ない場面が頻発している」

といった現象です。

www.newsweekjapan.jp

blogos.com

こういうの面白いでしょ。「ネイティヴ英語話者が、自分の英語が周りに通じなくて困惑する現象」って「非英語圏あるある」ネタなんじゃないでしょうか。わたしが住んでいるような大陸ヨーロッパの国ではしばしば起こることです。

わたしは日常生活でも大学生活でも英語しか使用していません。エストニア人の大半は英語を問題なく話せますし、大学では英語で行われる授業しか履修していないので、むしろ現地語であるエストニア語を使う機会がほとんどありません。エストニア人と挨拶を交わすときくらいしか使わないです。

大学生活のなかで現在までに出会った英語のネイティヴ・スピーカーは、教授・学生をあわせてもわずか数人しかいません。あとはすべて英語を第二、第三、またはそれ以降の言語として話している人たちです。というわけで、わたしは大学をふくめ日常生活で英語しか使用していないにもかかわらず、ネイティヴの英語話者と話す機会がほとんどないという状況です。

そういった環境なので、エストニア人学生や他国からの留学生と会話するときに、「ネイティヴはこう言う!」みたいな本に載っている北米のくだけた口語表現を使っても、逆に通じないことが多々あるのですよ

あと、これも日本の英会話本でありがちな「その英語、ネイティヴには通じません!」とか「その言い回しはネイティヴには失礼に聞こえます!」といった指摘ですが、そういったこともほとんど気にしたことがないです。非ネイティヴ話者同士で会話しているわけですから、「その表現がネイティヴ話者にとって適切な表現かどうか」なんてことを判定できないんです。この「ネイティヴが失礼と感じるかどうか」という観点からいうなら、「アメリカの若者が使うスラング集」なんてそっくりそのまま「失礼な英語表現集」なわけで、そういうった表現を覚えても「うっかり実際の会話で出てしまわないように」注意を払わないといけないので面倒くさいのではないかと思います(笑)

さらに言うと「ネイティヴ話者ならではの流暢な発音」も、非英語圏の英語話者にはかえって聞き取りにくかったりします。「これがニューヨーカーの英語!」といったような、英語話者のうち一部の人しか理解できない方言をいっしょうけんめい習得して使ってみたとしても、ヨーロッパでは「何を言っているのかわからないので、もっとゆっくり落ち着いてしゃべってほしい」とお願いされてしまいそうです。

わたしの経験では、ネイティヴ・スピーカーと話すより、英語を第二(またはそれ以降の)言語として使用する非英語圏の学生たちと話すほうが気楽なんです。非ネイティヴ話者のほうがネイティヴより丁寧に発音してくれるし、難解な単語が出てくることも少ないですし。

日本語で例えて説明してみるとわかりやすいかもしれませんね。もしもあなたが日本語の勉強のために来日して2年の外国人だったとして、

「いやー、このところ連日午前様でさ、懐のほうもスッカラカン。親父に金を無心してみたんだが、けんもほろろに断られたよ。まあ身から出た錆だわな」

みたいな慣用表現バリバリで早口でまくしたてるネイティブ日本語スピーカーと会話するより、

「さいきん毎日のように朝まで飲み歩いていたので、お金がなくなってしまいました。父にお金を貸してくれないか頼みましたが、冷たく断られました。でも、自分のせいなので仕方がないですね」

と言った感じで丁寧に話してくれる外国人留学生と会話するほうが気楽だよね、みたいな話です。

 

さて、ここまでに述べたことをまとめると、

  • 英語話者のうち、ネイティヴ話者の割合はたった3割。われわれ非ネイティヴ話者のほうが多数派
  • 世界で起こっているのは「英語運用において、ネイティヴ話者の側が非ネイティヴに譲歩をもとめられつつある」という潮流
  • 「ネイティヴはこう言う!」などと紹介される表現は、むしろネイティヴ以外には通じないことが多かったりする

という感じになるのでしょうか。「英語話者のうち少数派にすぎないネイティヴ・スピーカーの英語を基準にしてしまうと、世界での実際の英語運用についていけない」ということでしょうかね。

むしろ非ネイティヴ話者同士の接触によって独自のピジン言語を生んでみる、とかのほうが面白そうですよ。エストニア人と非ネイティヴ話者同士として英語を話すことで「日本-エストニアピジン英語」を誕生させられないかと企んでいます。

[1] List of languages by total number of speakers - Wikipedia