エストニア共和国より愛をこめて

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ヨーロッパ型極右が日本に台頭する日

「オランダのトランプ」と呼ばれる男

ドナルド・トランプの大統領選出はヨーロッパにも大きな衝撃を与えました。大学でも学生寮でもここ半年くらい大統領選とトランプの話ばっかりしていたような気がしますねえ、隣の大陸の話なのに。しかし昨年の難民危機に続いて大規模なテロの続発、今年夏の Brexit と、ヨーロッパ域外からの人々の移動に対してネガティブな感情が広がるなかで、「アメリカが移民抑制政策を掲げるポピュリストを次の大統領に選出した」というのはヨーロッパ市民にとっては非常にインパクトのある事件だったわけです。

そんななかで注目を浴びているのが、トランプよりさらに過激な反移民・反イスラム政策を掲げるオランダの極右政治家、ヘルト・ウィルダースです。公の場でヘイトスピーチを行ったことで複数回にわたり訴追されており、現在も公判中という人物でありながら、オランダ自由党の代表として保守層・欧州懐疑派から熱烈な支持を集めています。この自由党も泡沫政党というわけでは全くなくて、次回のオランダ議会下院選挙では第一党に躍り出る可能性もあるのではと噂されているほどです。

 

www.bbc.com

ウィルダースとトランプの間には、「右派ポピュリスト」「過激な排外主義発言」「反イスラム思想」「頭髪」など多くの共通点が存在します。ヨーロッパでも「オランダのトランプみたいなやつ」などと紹介されることも多々あるようで、こういったキーワードで画像検索するとウィルダースの名前を入れなくても彼の写真が出てくるくらいです(笑)

dutch trump - Google otsing

しかしウィルダース本人は「アメリカのあいつ、キャラが被っててムカツク!!」とはまったく思っていないようで、それどころかトランプ新大統領を熱烈大歓迎しております。

 

www.independent.co.uk

ヨーロッパの極右支持層と日本のネトウヨの違い

ウィルダースオランダ自由党の他にも、フランスではルペン2世率いる国民戦線が大幅に勢力を拡大していて、ヨーロッパでも相当にリベラルなイメージのある2国が「ひょっとしたらごく近い将来に極右政権の誕生もありえるかも?」という情勢にあるわけですが、そこにあのトランプ当選ですからね。ヨーロッパのリベラル層、EU支持派がショックを受けているわけです。

さて、日本はどうでしょうか。日本の場合、現在の政権がすでにほとんど極右みたいなもんですし、もともと移民なんて入れていないきわめて閉じた国ですから、ヨーロッパとは事情がだいぶ違います。それでも……なんだっけ、「日本のこころを大切にする党」でしたっけ。あの系統の「ネトウヨから支持を集めるガチ極右」が無視できない勢力として台頭してくる可能性を危惧したほうがよいのかどうか。

ここで考慮しておかなくてはならないのは「ヨーロッパの極右と日本のネトウヨの違い」ですね。強烈な排外主義であることは全く同じですし、伝統(だと彼らが思っているもの)を死守せよという主張も同じなのですが、ひとつ両者のあいだで傾向が違うのは「経済的弱者に対する政策」ですね。

ヨーロッパの極右政党は「弱者にやさしい政策」を戦略的に提唱する場合が多いんです。ただし対象である弱者は「移民を除く、純粋な自国民」に限るわけですが。

ウィルダースも「弱者ガンガン切り捨ての新自由主義」なんて路線ではなくて、「よそ者を追い出した上での充実した社会保障」を政策にしています。フランスの国民戦線も、父ルペンの時代からはすっかり方向転換して「フランスが伝統的に守ってきた豊かな社会福祉」を党の方針としています。要するにヨーロッパの主要な極右は「排外主義+弱者にやさしい充実した社会保障」をセットにしていることが多いというわけです。こういったポピュリズムによって、経済的弱者から熱烈な支持を集めて勢力を拡大できてしまっているという。

一方、日本の極右はそっちには行かないんですよねえ。日本のネトウヨは「充実した社会保障」とか嫌いですから。「『弱者にやさしい政策』とか言うのは左翼! 社会主義! 危険思想!」だと思っているので、ネトウヨ層はそういった政策を支持しません。

ネトウヨ層が大好きな「日本のこころ」党だとかそのあたりの社会福祉政策って、要は「福祉は家族と地域で! それが美しい日本の伝統!」という方向なわけです。「日本は美しい国で、困っている人がいても家族や地域で助け合うことを伝統としてきたのです! 生活保護に頼るのは甘え! 協調性を養うためには組体操! 便所掃除は素手で! ニートは親の教育が悪い!」みたいな、ハードコアなネトウヨ層しか支持しないような方向にしかいかないので、幸いにして(?)大した勢力にはなっていないのが現状だと思います。

もしもヨーロッパ型極右政党が日本に生まれたら

そんな日本に、「ほうほう、ヨーロッパの極右連中がやっているように、経済的弱者を冷たく切り捨てるのではなくて、逆にやさしくする方向に行けば支持を拡大できるのか。そういった層のほうがボリュームがあるからな。なるほどいいことを聞いた」などと、ウィルダースやルペン2世の政策を取り入れた極右新党なんかが出てきたら大変ですよ。

「フリーターや失業者のみなさん、いいですか、みなさんは何も悪くないんです。けっして自分を責めないでください。あなたがたが経済的に苦しいのは、努力が足りないからではないんです。日本人という極めて優秀で勤勉な民族であるみなさんが怠け者なはずがないじゃないですか!!

違うんです。みなさん周りをごらんなさい。日本人がこれだけ苦しいのに、なぜ外国人が入ってきて職を得ているんでしょうか? ここは日本ですよ! 日本人の国ですよ! 優秀な日本人のみなさんが失業しているのに、外国人が仕事に就いているというのはおかしいですよね? こういうことをはっきりと『おかしい!』と主張しているのが我が党なんです!! みなさん、わたしたちといっしょに偉大な日本を取り戻しませんか!!」

……みたいな煽動をやってのける頭のいいカリスマ極右が登場したら、日本の有権者のうち500万人くらいはコロッといっちゃってもおかしくない気がするんですよね。

付け加えると、さきほどは「ネトウヨはその手の路線は支持しない」と書きましたけど、よく考えたらネトウヨ層にも「外国人排斥や愛国教育は大歓迎なんだけど、ぶっちゃけ『ニートは甘え』とか『生活保護は甘え』とかは賛成できないんだよね~。ほんとうに必要な人には社会保障が行き渡る社会のほうがいいな」みたいな人たちは結構いそうな気がするんですよね。

日本ではいまのところ「反貧困」は左派ばっかりやってますが、ヨーロッパでは極右政党が貧困層に食料を配布して支持を獲得したりしていますよ。日本でも「極右による反貧困運動」とか出てきたらそこそこ成功しちゃうんじゃないでしょうか。「『日の丸・君が代反対!』とかいらんことまでくっつけてくる左翼の反貧困運動とは違って、『いざとなったら助け合うのが日本人の美徳! 貧しい人を思いやるのが日本の心! 貧富に関係なく日本人は日本人!』という精神で炊き出しやってくれる極右政党さんのほうが全然支持できるわー」って人たち、絶対に一定数いますからね。

というわけで、日本のリベラルは「貧困問題を極右に握られる前にやっとけ」ということでしょうかね。ドナルド・トランプも共和党候補に名乗りを上げた時点では泡沫扱いだったのに最終的には大統領の座を射止めちゃったくらいですから、世の中なにが起こるかわかりませんぜ。