エストニア共和国より愛をこめて

北欧に位置する人口130万ほどの小国・エストニアに暮らす大学生が、留学・観光・社会・市民生活などの話題を中心にさまざまな情報をお届けします。

「ジャズ」という音楽について深く知りたい人におすすめの厳選5冊


いきなりですが、わたしってジャズ評論のたぐいをほとんど読まないんですよ。なぜかというと、わたし自身が(アマチュアではありますが)ジャズ・トランペットを演奏する人だから。

日本の、特にジャズというジャンルの評論家のほとんどは楽器が弾けないし、楽譜も読めないし、もちろん音楽理論の分析なんかはできないから、書いているものもトンチンカンで全然楽しめないんですよね。「ジャズ喫茶やレコード屋やオーディオ愛好家のオヤジが、自分の趣味をベースに薀蓄を披露する本」などは掃いて捨てるほど存在しても、ちゃんと学術的な訓練を積んだ人による「批評」にはなかなかお目にかかれません。

ただし、

1) 楽器の演奏経験や音楽理論の知識がそれなりにある書き手による評論

2) 演奏家自身による自伝

については読む価値のあるものがけっこうあって、わたしもこれまでに何冊か手にとってきました。やっぱり音楽をちゃんとわかっているヒトに書いてもらわないとね!

というわけで、今回は「ジャズという音楽について知りたいんだけど、どこから聴き始めたらいいのかしら」という方のために、「実際にジャズを演奏するわたしが読んでめちゃめちゃおもしろかった本」を5冊ピックアップしてご紹介します。準備はよろしいかしら?

内藤遊人『はじめてのジャズ』

はじめてのジャズ (講談社現代新書)

はじめてのジャズ (講談社現代新書)

 

初っ端から絶版本ですみません。でもアマゾンに中古本の出品がけっこうあるっぽいので入手はそんなに難しくなさそうですね。

著者の内藤さんは学生の頃ソニー・ロリンズに憧れてテナー・サックスを吹いていた人みたいなんですよね。なのでその他のニッポンのヒョーロンカと違って音楽の話がちゃんとできる人みたいなんですよ(たとえばロリンズの『アルフィー』のライナーノーツの解説がこの人だったかな。自分で耳コピして楽曲構成を分析したことを書いてる)。

最初の章でジャズの偉人たちを8人紹介し(筆頭はもちろんマイルスだ)、続いてジャズの歴史をその誕生から追いかけ、巻末にはディスクガイドで締めるという構成です。よくまとめられた本だと思います。

ただし初版が1987年なので情報がチト古いのですわ(ってか30年前なのか!)。まだマイルス・デイヴィスもディジー・ガレスピーも現役だった時代ですからね。90年代以降にもマイケル・ブレッカーやパット・メセニーといったフュージョン人材が主流派ジャズを牽引していったり、クラブ・シーンにおいてジャズが独自の発達を遂げていったり…などのイベントが盛りだくさんなのですが、とうぜんこの本では触れられていませんので、興味がある人は何か別の書を探してくださいな!

マイルス・デイヴィス、クインシー・トゥループ『マイルス・デイヴィス自叙伝』

マイルス・デイビス自叙伝〈1〉 (宝島社文庫)

マイルス・デイビス自叙伝〈1〉 (宝島社文庫)

  • 作者: マイルスデイビス,クインシートループ,Miles Davis,Quincy Troup,中山康樹
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 1999/12/01
  • メディア: 文庫
  • 購入: 4人 クリック: 35回
  • この商品を含むブログ (47件) を見る
 
マイルス・デイビス自叙伝〈2〉 (宝島社文庫)

マイルス・デイビス自叙伝〈2〉 (宝島社文庫)

  • 作者: マイルスデイビス,クインシートループ,Miles Davis,Quincy Troup,中山康樹
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 1999/12
  • メディア: 文庫
  • 購入: 2人 クリック: 9回
  • この商品を含むブログ (34件) を見る
 

いよいよマイルス! わたしは自分がトランペット吹きというのもあって、もちろん最も尊敬する音楽家は帝王マイルス・デイヴィスです。中学生のころにマイルスのレコード(!)に魅了されて以降、「ラウンド・ミッドナイト」は常にいちばんお気に入りのジャズ・スタンダードですし(この曲でソロ取るの難しいんだけど)、トランペットを手にしてからは録音から譜面を書き起こしてコピーしたりとか…。マイルスとともに人生の時間の結構な時間を過ごしてきました。

マイルス・デイヴィスという人間の歴史はそのままモダン・ジャズの歴史なわけですな。ニューヨークに出てチャーリー・パーカーに拾われ、独立したのち紆余曲折を経て黄金のクインテットの結成、モード・ジャズの開拓、ロックを取り入れて電気化、引退と復活…。なんてえらい駆け足で説明してしまいましたが、マイルスが常に時代の最先端に立ち続けていたことを改めて思い知らされます。

マイルスのプライベートなエピソードの数々も面白いです。やばいアレに手を出して生活がボロボロだった時代の話、父の死をJ.J.ジョンソンから告げられるシーン、ギル・エヴァンスとの友情、ジュリエット・グレコとのデート、2番めの妻を介してのジミ・ヘンドリクスとの三角関係(!)など、音楽界のゴシップが好きな人(なんて存在するのかなあ)にもたまらない内容かもしれません。

 ビル・クロウ『さよならバードランド―あるジャズミュージシャンの回想』

さよならバードランド―あるジャズ・ミュージシャンの回想 (新潮文庫)

さよならバードランド―あるジャズ・ミュージシャンの回想 (新潮文庫)

 

こちらの本の翻訳者は、なんとあの村上春樹です。作家になる前はジャズ喫茶のオヤジ(オヤジじゃないな、20代の頃らしいので)だったということで、作品にもジャズの楽曲がよく出てきますよね。あとはジャズ・トロンボーン奏者の登場人物が出てくる作品があったり。

原著者のビル・クロウはベーシストで、ジェリー・マリガンやボブ・ブルックマイヤー、スタン・ゲッツといった西海岸派の人との仕事が多く(といってもずっとニューヨークで活動していたようですが)、いわゆる「名盤」といわれる作品にも結構参加してるんですよね。普通のジャズ・リスナーは(ミンガスとかレイ・ブラウン、スコット・ラファロみたいなビッグ・ネームを除いて)ベースにそこまで注目しないはずなので、ビル・クロウ自身にはそこまでの知名度はないかもしれません。訳者の村上サンも訳者あとがきで「(マイルスやビリー・ホリデイみたいな巨人とはまた違った)普通のジャズミュージシャンの普通の自伝」と表現していますしね。

マイルスの自叙伝となると「やばいアレに手を出してボロボロに」だとか、女性問題だとか、苛烈な人種差別の被害などのシリアスなトピックがてんこ盛りなのですが、ビル・クロウさんはジャズ・ミュージシャンとしては珍しくクリーンに生きた人みたいで、苦労話も挟みつつも楽しげに半生を振り返っています(白人なので人種差別を受けた経験もなかったでしょうし)。「周りのクレイジーな芸術家たちを冷静に観察する優等生」みたいなスタンスで、スタン・ゲッツやジーン・クイルやベニー・グッドマンらの狂いっぷりを暴露していて面白いです。

ビル・クロウ『ジャズ・アネクドーツ』

ジャズ・アネクドーツ (新潮文庫)

ジャズ・アネクドーツ (新潮文庫)

 

ビル・クロウからもう1冊。翻訳はこちらも村上春樹です。毎年ノーベル文学賞の発表が近づくたびに話題になる、現代日本を代表する作家である村上サンですが、クロウの2冊の著書については自分から翻訳を買って出たとのこと。完全に趣味でやってるんでしょうね! 

さて著者のビル・クロウですが、この人は若い頃から細かい日記か何かつけていたんでしょうかね? 自伝のほうでもとんでもない数のミュージシャンが登場し、だれとどこで共演してこんなお面白いエピソードがあった、というのを事細かに描写しているので、やっぱりメモ魔だったんじゃないかなあ。あるいは驚異的な記憶力の持ち主なのか。

この本のタイトルに含まれる「アネクドート」というのは、わたしのように旧共産圏の国に住んでいる人間は思わず反応してしまう単語です。こちらでは旧ソ連時代の風刺ネタを「アネクドート」と呼ぶので。ただしこの本においては「ジャズおもしろ逸話集」みたいな意味合いでしょうかね。

ビル・クロウが見聞きした面白エピソードの数々が収録されています。チャーリー・パーカーは狂気の芸術家でヤバい変態のくせにとんでもない教養の持ち主だったとか、アート・ブレイキーがドラマーになったきっかけだとか、カーティス・フラーがマイルスに恩義を感じている理由だとか、興味深い話が盛りだくさんなので、作品だけではなくジャズ・ミュージシャンの生き様にも触れてみたいという方はぜひ読んでみてください。

穐吉敏子『ジャズと生きる』

ジャズと生きる (岩波新書)

ジャズと生きる (岩波新書)

 

「世界的に知られている日本人のジャズ・ミュージシャン」 といえば誰でしょうか。渡辺貞夫、日野皓正(あのビンタ事件はほんとうに残念だったな…)、菊地雅章といった名前が思い浮かびますが、秋吉(著者名としては旧字の『穐吉』)敏子は間違いなくその一人ですね。

ジャズの本場であるアメリカで長年にわたり演奏活動を展開し、圧倒的な男社会であるジャズ界で、それもアジア人の女性でありながら第一線で活躍し続けてきたのが秋吉さんです。満州に生まれて幼少よりピアノを始め、敗戦後に移った別府の進駐軍クラブでプロデビューし、上京して当時最先端のモダン・ジャズ・グループ「コージー・カルテット」を結成。さらに日本人としてはじめてボストンのバークリー音楽大学に留学し、バド・パウエルやチャールス・ミンガスに認められ、伴侶のルー・タバキンとジャズ史に残るビッグ・バンドを結成し…。と、その経歴を追うだけで圧倒されます。

実はわたし、トシコ=タバキンの『孤軍』のLPを持っていただけで(それも日本を離れたときに手放してしまった)、他のビッグバンド作品やコンボ作品はまったく聴いていないんですよね…。わたしはアレンジメントにも興味があって勉強していたヒトなので、機会があったらじっくり鑑賞してみたいものです。

 

********

というわけで、わたしの個人的なおすすめ5冊(マイルス自叙伝は上下巻で1冊と数えてね!)をご紹介しました。冒頭でさんざん評論家を馬鹿にしてしまいましたが(笑) まあジャズに限らず、ある音楽を鑑賞するときに奏者や楽曲のバックグラウンドについての知識があるとより楽しめるのは事実だと思います。読み終えたらぜひ音源を手にとったりライブに出かけたりしてみてくださいね!