エストニア共和国より愛をこめて

北欧に位置する人口130万ほどの小国・エストニアに暮らす大学生が、留学・観光・社会・市民生活などの話題を中心にさまざまな情報をお届けします。

ジャズ・ミュージシャンたちの「進化」と「円熟」


ジャズ・ドラムの大長老―ロイ・ヘインズ

ちょっとひさびさの更新ですが、エストニアとは全然関係のない、趣味の話をします。わたしの趣味といえばもちろんジャズです。ジャズのお話です。

わたくし、今週半ばから体調を崩してしまってですね、バンドのギグやリハーサルも断腸の思いで欠席して、自宅で休養しています。

 (演奏活動も貴重な収入源となっているので、ギグを休むのは結構痛いのですが…)

卒業論文の続きに取り掛かるほど元気ではないが全く動けないほどでもない、という体調なので、おとなしく横になって Spotify でひさびさにじっくり音楽を聴いてました。

Spotify は現在世界最大の音楽ストリーミングサービスらしいんですが、ジャズやクラシックもかなり豊富に揃ってますねえ。ちょっとコンテンポラリー寄りなジャズが聴きたくて、秋吉敏子やギル・エヴァンスらのアルバムをタップしていたのですが、名盤だということは耳にしていながらこれまで未聴だったパット・メセニーの『クエスチョン・アンド・アンサー』(1990)にたどりつきました。

Question and Answer

Question and Answer

 

メセニーがジャズ・スタンダードを演奏していることで有名なアルバムのようです。端正で技巧的なメセニーのソロも素晴らしいんですが、耳を奪われたのはドラムスのロイ・ヘインズの演奏!

ロイ・ヘインズってチャーリー・パーカーのグループでビバップやっていた人ですよね? ネットで検索して調べたら現在93歳でご健在、最近もステージに立っているみたいなんですが、この年代の演奏家とは信じられないくらい現代的なプレイをするんですよ(『クエスチョン・アンド・アンサー』の録音時点で60代半ば!)。

ケニー・クラーク、マックス・ローチ、アート・ブレイキー、そしてこのロイ・ヘインズらが確立したモダン・ジャズ・ドラムのスタイルですが、60年代以降にさらに革命があって、トニー・ウィリアムスやジャック・ディジョネットが新しい4ビートのスタイルを開発します。現代のジャズ・ドラマーのほとんどがこの二人の影響を受けているはずです。

彼ら新世代とビ・バップ~ハード・バップ世代ではだいぶビートの感覚が違ってくるのですが、ロイ・ヘインズに限ってはこの壁を超越しているんですよ。中年期を迎えて以降も明らかに演奏スタイルが進化していて、常にその当時最先端のジャズに適応したリズムを叩いています。

Now He Sings Now He Sobs

Now He Sings Now He Sobs

 

演奏家の「円熟期」

ロイ・ヘインズをはじめ、ソニー・ロリンズ、ケニー・バレル、ベニー・ゴルソン、カーティス・フラー、バリー・ハリスといったい現在もご存命のご長寿ジャズ・ジャイアンツがいらっしゃいますが、このお歴々は業界ではかなり例外的な存在ってことになりそうです。

そう、ジャズ・ミュージシャンって早死にの人が多いんですよね

クリフォード・ブラウンやブッカー・リトル、ファッツ・ナヴァロのようにわずか数年の活動期間を残して世を去ってしまった天才たち(なぜか全員トランペッターだ)だとか、ギグの休憩時間に射殺されてしまったリー・モーガンだとか(またトランペッター!)。

チャーリー・パーカーは34歳の若さで永眠していますし(まあこの人は薬物乱用を続けていたようなので…)、長い下積み期間を経て成功をつかんだウェス・モンゴメリーも、演奏家として絶頂期を迎えた40代半ばに急死しています。

ビバップ世代のミュージシャンたちだと、運良く(?)若くしての死を免れたとしても、中年期を迎えたあたり(1960年代)でアメリカにおけるジャズの人気が下火になってしまって、以降あまり録音を残してなかったりするんですよね。

この世代のジャズ・ミュージシャンたちの進路は概ね以下のような感じです。

  • ソウル・ジャズ、ファンキー・ジャズ、フュージョンなどへの転向
  • 映画やTVの劇伴の制作、スタジオ・ミュージシャンへの転向(J.J.ジョンソン、ベニー・ゴルソン等)
  • ヨーロッパに移住(ケニー・クラーク、デクスター・ゴードン、ケニー・ドリュー等)
  • そのまま廃業…

さらに70年代になると旧来のアコーステックなジャズはすっかり陰の存在になってしまうので、ビバップ世代の奏者たちは、本来ならちょうど演奏家としての円熟期を迎えていたはずの年代(40~50代?)に録音の機会に恵まれていないことが多いんですよねー。80年代になってくるとアコーステック・ジャズが復権してきて、日本のレコード会社主導で往年のジャズ・ジャイアンツたちのスタンダード集みたいな盤が出てきますが。

1950年代の「モダン・ジャズ黄金時代」の作品群って、プレイヤーたちはたいてい20代の若者たちですよね。なので現代の耳で聴くと、技術的には結構荒削りに感じたりするんですよ。力でねじ伏せるような超絶技巧の追求だったら若いほど有利かもしれませんが、芸術的な解釈の深さだとか表現力となると、やはりある程度人生経験を積むことが必要になってくるのかなと。ビバップ世代のアーティストについては「もうちょっと長生きしてくれてれば…」「もう10年、ジャズの時代が続いていれば…」なんて思ってしまったりします。

マイルス・デイヴィスは(あれだけ薬やらなんやらやりたい放題だったにも関わらず)長期間にわたりジャズ界の帝王として君臨していましたが、創造力の面でも演奏技術の面でも、1960年代半ばからの数年間の作品群は、その長いキャリアにおいても「別格」という感じです。

My Funny Valentine

My Funny Valentine

 
Esp (Reis)

Esp (Reis)

 
MILES SMILES

MILES SMILES

 

よく「マイルスは技術的には一流とは言えなかったが…」とかいう人がいますよね。まあたしかに初期の録音ではミス・トーンも目立ち、音域もそれほど広いとは言えなかったマイルスですが、実はキャリアを積むにつれてテクニック的な弱点はかなり克服しています。60年代半ばあたりは技術的にもピークを迎えていて、高速フレーズが弾丸のごとく次々と飛び出してくるし、鋭いハイノートもガンガンヒットさせてます。

自身の確立したスタイルを保ちながら円熟期を迎える演奏家が多いなか、キャリアを通して進化を続けたマイルス・デイヴィスとロイ・ヘインズ。音楽だけじゃなくて生き方の面でも見習うところがありそうですねえ。