エストニア共和国より愛をこめて

北欧に位置する人口130万ほどの小国・エストニアに暮らす大学生が、留学・観光・社会・市民生活などの話題を中心にさまざまな情報をお届けします。

7か国語を操る語学の達人が教える「効果的に外国語を学ぶ方法」

7か国語を自在にあやつるイタリア人

 

それほど広くない地域に多数の国々がひしめくヨーロッパにおいて、第一言語以外にいくつかの外国語を話せる人というのはそれほど珍しくありません。

エストニア人はたいていトライリンガル(3か国語話者)で、エストニア語、英語、さらにドイツ語かロシア語(中等教育でどちらかを選択するのが普通)を話せることが多いです。なので大学で外国語を専攻する場合、第四言語またはそれ以降の言語として学ぶことになります。

外国からエストニアに来ている留学生も、通常は英語を含む複数の言語を話せます。わたしは日本語以外にある程度話せるのは英語だけで、その英語を使用してエストニア語を第三言語として学んでいる段階です。「大学にまで来て勉強している言語がまだ3つ目にすぎない」というのは、ヨーロッパでは珍しい部類かもしれません。

とはいえ、4か国語以上をそれぞれそれなりに高度なレベルで話せる人というのはちょっと限られますね。「第二言語の英語まではアカデミックなレベルで使えるけど、3つ目以降は日常会話程度かな……」という人も結構います。

しかし! 世の中にはやはり言語習得に特別に秀でた才能を持った人というのがいるみたいなんですねー。わたしの友人のイタリア人・グレゴリオは仲間内で"語学の達人"として知られていて、彼はなんと7か国語を流暢に話すことができます

というわけで、今回はこのグレゴリオ君に「いったいどうやってそんなにたくさんの言語を勉強したのか」「効率的に外国語を学ぶ方法はあるのか」を質問してみることにしました。当ブログ初のインタビュー記事です。

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 「歌」で外国語を覚える

 

―― チャオ! 早速なんだけど、グレゴリオが話せる言語といえば第一言語のイタリア語、このインタビューで話している英語、あとほかには何語を話せるんだっけ?

グレゴリオ ほかにはチェコ語ハンガリー語エストニア語、ロシア語、スペイン語。あとはグルジア語、フランス語、中国語をある程度、って感じかな。

―― あれ、数えてみたら全部で10か国語あるじゃん!?

グレゴリオ 最後の3つはまだ完成してないんだ。「流暢に話せる」ってレベルだと7か国語かな。うち5か国語については学術レベルで運用できるよ。

―― ひょえー! こっちに留学したのもエストニア語を勉強するためなんだよね?

グレゴリオ そうだよ。2015年の夏にこっちに来て、1年後には(ヨーロッパ言語共通参照枠における)C1(=その言語で高等教育を修了できるレベル)まで到達したよ。

―― まさに「語学の達人」って感じだねえ。日本では第二言語としての英語の習得の段階で苦労している人も多いくらいで、7か国語話者となるともう想像がつかない(笑)
で、語学について日本人が考えがちなのが、「実はもっと楽ちんに、簡単に外国語を身に着けられる特別な方法があるんじゃないか、自分はそれを知らないだけなんじゃないか」みたいなこと。

グレゴリオ そんな特別な方法なんてないよ(笑)

―― でもね、日本のちょっと大きめの本屋に行くと、英会話のコーナーには教材がどっさり並んでいるのよ。で、『たった2か月で英語がペラペラになれるラクラク勉強法!』みたいなタイトルの本がよく売れてる。

グレゴリオ 初心者が外国語を2か月で習得できるなんてありえないでしょ。

―― でもそういう刺激的なタイトルの本が売れちゃうんですよ。あとは通販で高額な英会話教材を買っちゃう人とかね。みんな「今度こそ挫折しないように、あまり苦労しないで外国語を習得できる方法」を探している。

グレゴリオ Lazy! (笑) でもそんな特別なメソッドなんてないんだよ、本当に。外国語を努力せずに習得できる方法なんてないんだ

―― やっぱりね、そうだよね(笑) しかし7か国語を話せる人が言うと説得力があるね。

グレゴリオ 「楽な方法」はないけれど、「楽しみながら学ぶ方法」というのはあるね。実際に僕もやっている学習法がある。それは「学習したい言語の歌をたくさん歌って覚える」という方法だ。これはおすすめだよ。

―― 英語を学びたい人なら、なにか英語の歌を覚えて歌ってみることで英語が上達する、ってこと?

グレゴリオ そう。ただしあまり速いテンポの曲や難しい曲じゃなくて、スローでシンプルな曲がいいね。もちろんただ聴くだけじゃなくて、自分で歌ってみて覚えるのが大事だよ。

―― もちろん文法については先にみっちりやっておいたほうがいいんだよね?

グレゴリオ いや、僕はそういうのは後回しにしていいと思っている。文法の知識なんてのは、あとになって歌の内容を分析するときに使えばいいんだ。まずは歌を覚えてその言語のリズムや発音の特性をつかむのが大事なんだよ。もちろん、最初にその歌の歌詞の対訳が用意できていればいちばんだけれどね。とりあえず意味がつかめるし。

―― 無味乾燥な文法書をひたすら読むだけよりは断然面白そうだね。

グレゴリオ でしょ? でもまあ、先に文法から始めても別に構わないとは思うよ、本人がそのほうがいいというのなら。人によって効果的な学習法というのは違うからね。

 

 習得したい言語が使われている地域で暮らしてみるのがいちばん

 

グレゴリオ ある言語を本気で習得したいと思うなら、やっぱりその言語が使われている地域で生活してみるのがいちばんだね。これに勝る方法はないよ。

僕はエストニア語を学ぶためにこの国に来たわけだけれど、イタリアに住んだままではエストニア語を習得するのはとても難しかったはずだ。だってイタリアにはエストニア人がほとんど住んでいないからね。エストニア語を実際に使ってみる機会を確保できない。

Skype などを使ってネイティヴ・スピーカーのレッスンを遠隔受講、みたいなことももちろん有効だとは思うよ。ただし、それは「その言語が使われている場所で生活する」ことと比べれば、効果の程度はまったく違ったものになってしまうだろう。

―― もしも英語を学びたいなら、いちど英語圏で暮らしてみるのがいちばんいい、と。

グレゴリオ そういうことになる。その言語が使用されている地域に実際に住むことができれば、自国で外国語を学ぶ場合に比べて、触れることができる情報量が圧倒的に違うからね。

現地に住んでいれば、ちょっと街を歩いているだけで、その辺の看板だとか、スーパーマーケットの安売りの知らせだとか、現地語の情報がいやでも目に入ってくるでしょう。「その言語のなかに身も心も浸る」といった感覚は、自国にいたままでは体験できないからね。これはもう圧倒的な違いがあるよ。

あとね、どの言語にも「ほかの言語にはうまく訳すことができない言葉」というのが存在するんだ。日本語にもたくさんあるだろう? その地域の文化や伝統を前提としているために、他言語にはなかなか対応するものを見つけられない表現ってやつね。そういったものまで習得したいとなると、もうその地の文化にある程度なじんでみるしかないよね。

―― やっぱり留学がいちばんいいってことなのかなあ……。日本人でも英語の習得のためにアメリカやカナダやオーストラリア、フィリピンなんかに留学する人が多いね。ただし、せっかく語学留学しても「日本人同士でずっとつるんでいたために、さっぱり英語が上達しなかった」みたいな人がめちゃめちゃ多いみたいだけど(笑)

グレゴリオ イタリア人が英国などに英語留学する場合でもそういうことはよくあるみたいだよ(笑) もちろん同国人とつるんでばかりなのはよくない。僕は留学先では必ず現地の友達を積極的に作って交流するよ。とにかく外国語ってのは実際に使ってみないと上達はありえないわけだから、その言語を十分に使えるための環境を作るというのはとても大事なことなんだ。

 

 ボキャブラリー増強のコツ「あるフレーズを『特定の映像』と結び付けて記憶する」

 

―― しかし流暢に話せる言語だけでも7つあるというと、頭の中には数万とか数十万の単語が収められているってことでしょう。どうやって覚えるの?

グレゴリオ そうだね……。僕はひとつユニークといえる方法を使っているかもしれない。それは「ある単語やフレーズを、特定のイメージと結び付けて覚える」という方法だ。

―― あ、それって記憶術の典型的なやつかな? 具体的にはどうやるの?

グレゴリオ 例えば、こないだ Kino は僕に日本語の「どういたしまして」というフレーズを教えてくれたでしょう。僕の脳裏にはその瞬間の光景が「映像的に」残されていて、「"どういたしまして"という音声=Kino のイメージ」という感じで変換されるんだ。そして「お礼をいうべきシチュエーション= Kino の顔="どういたしまして"の音声」というふうに結び付ける。こうやって記憶すると忘れないんだよ。

有名な数学者で、「個々の整数について特定の色彩を感じる」という人がいるんだよ。「この数字は薄紫」だとか、「あの数字は濃い黄色」だとかね。そういった現象に近い感覚かな。それを単語やフレーズの大量暗記に応用しているわけ。

―― え、それって共感覚のことなんじゃない? やっぱりグレゴリオは特殊な能力を持ってるんじゃないの?

グレゴリオ んー、もしかしたらそうかもね(笑)

―― ボキャブラリーを増やすために、ひたすら辞書を読み込んだりする人もいるけれど……。

グレゴリオ 僕も辞書を読むのは好きだよ。そのときも、目に入っているページを「そのまま映像として」記憶できたりするんだよね。そうやって載っている単語を覚えたりもする。

―― それって「映像記憶」みたいなこと? この点に関してはグレゴリオには普通の人にはない能力が備わっている気がするなあ……。

グレゴリオ どうだろう?(笑) もっと誰にでもできるシンプルな方法というのなら、単語をひたすらノートにペンで書き写して覚えるってのも有効だよ。

―― それはやっぱり紙とペンじゃないとだめなのかな? タイピングではだめ?

グレゴリオ タイピングより手書きのほうがずっと効果的だよ。ペンを動かしているときの手の感覚を、その単語の意味と結び付けて脳が記憶するらしいんだ。タイピングだとその効果が弱いみたい。

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ここがおかしい「日本人の英語学習法」

 

―― ここまで話を聞いてみての感想なんだけれど、やっぱり日本の学校における外国語教育って相当おかしいんだなあと。基本的にはこんな感じなのね。

  1. 教科書でひたすら文法を覚える
  2. 単語をたくさん覚える
  3. 英文を日本語に訳す

これで全部と言っていいと思う。会話をしたりだとか、文章を書いたりだとかはほとんど教わらない。

グレゴリオ それじゃただひたすら退屈で苦痛なだけだよね。1週間くらいで投げ出したくなりそう。

―― でもヨーロッパの人で語学が得意な人は、言語をそうやって勉強しないよね。

わたしはタリン大学の日本語専攻の学生たちと交流があって、「どうやって日本語を勉強したの?」という質問をよくしてみるんだけど、帰ってくる答えは、「漫画を読んだり、アニメやドラマを見たりして勉強しました」というもの。「文法書や単語帳を丸暗記して、片っ端から問題集に取り組んだら日本語が話せるようになりました」なんて人はいなかった(笑)

グレゴリオ イタリアの大学で日本語を学んでいる人たちも、8割くらいは「日本の漫画やアニメが好きで」というのがきっかけだと思うよ(笑) でもそういうのは言語の習得のための強いモチベーションになるよね。モチベーションを保つというのは本当に大事だ。そのためには、とにかく実際に生活のなかでその言葉を使う機会を持つことが必要なんだ。学んだことを、できる限り実践してみる。

―― 結局「好きなことのために」勉強するのでなかったら、身につかないよね。興味もないのに強制的にやらされることなんてたいてい楽しくないわけですよ。

あとは、「日本人は恥ずかしがり屋で、間違いを恐れるからいつまでたっても外国語ができるようにならない」ってのもよく言われる。

グレゴリオ エストニア人だってすごくシャイでしょ。でも複数言語を話す人がほとんどなわけだから、国民性はそこまで関係ないと思うよ(笑)

―― まあ、せっかく外国語を勉強していても、恥ずかしがって使わないんだったら意味がないよね。

グレゴリオ そう。繰り返すけれど、どんな方法でも構わないから、「覚えたことを実践する」ことがとても大事なんだよ。そうじゃなかったら絶対に話せるようになんてならない。文法を学ぶのは大事だけれど、僕が語学のなかでそういったものに費やす割合は全体の25~30パーセントに過ぎないんだ。残りの70~75パーセントは、もうひたすら"実践"だよ。実際に生活のなかで使ってみる、これがいちばん大切なことなんだ。

―― 「外国語は実際に使ってみないと覚えられない」が今日の結論ってことになるのかな。いろいろ教えてくれてありがとう。

グレゴリオ どういたしまして!(日本語で)

―― このぶんだと11か国語目に習得するのは日本語になるのかな?

グレゴリオ (笑)

 

おわりに

 

こうやって実際に"語学の達人"の話を聞いてみると、「やっぱり日本の英語教育は根本的におかしいんだな~」ということを改めて思ってしまいますねえ。

本の学校教育における「英語の学習」を、例えば「ピアノのお稽古」に置き換えてみると、こんな感じになるでしょう。

「ピアノが弾けるようになるために、いっしょうけんめい楽譜の読み方を覚えたのね。ピアノ教則本をたくさん買い揃えて、音楽理論書も何冊も読んで。ピアノには触らなかったけれど、理論や奏法の知識については、みっちり6年かけて勉強したの。でも、それだけの手間と時間をかけたのに、さっぱりピアノが弾けるようにならないのよ。いったいどうして!? 日本人はピアノに向いてないの??」

みたいな。こんなの十人中十人が「いや、それは肝心のピアノに触らなかったからでは?? まずはピアノを弾けよ!!」ってツッコミますよね。

これが「英語学習」になるとそうはいかないんですよね。「ピアノを弾け!」に気づける人がそんなにいないわけです。代わりに「付属CDをひたすら聞き流すだけでピアノに触らなくてもピアノが上達する驚異のピアノ教材(価格は数万円)」みたいなものを通販で買ってしまうんですよね。またはもうピアノ習得はあきらめて「日本人の脳の構造は西洋人と違うのでピアノ習得に不向きであり……」みたいな疑似科学を持ち出してみたり、「日本人にはピアノなんて必要ない!」などといった謎の理論でピアノを否定してみたりします。

ピアノ教則本をいくら熟読してもそれだけでピアノが上達することはありえないのと同じで、英語の文法書をいくら熱心に読んでも、それだけで英会話がうまくなるなんてことはありえないわけです。

7か国語を操る"語学の達人"ですら「努力なしで外国語を習得できる方法なんてないよ!」と言っているわけですから、「ネットの広告に出てくる怪しげな高額英会話教材を購入しても、それだけで魔法のように英語が上達することはあり得ない」と断言できます。読者のみなさんはくれぐれも変な語学系アフィリエイトサイトに騙されませんように。