エストニア共和国より愛をこめて

北欧に位置する人口130万ほどの小国・エストニアに暮らす大学生が、留学・観光・社会・市民生活などの話題を中心にさまざまな情報をお届けします。

人口減少がこのまま続いたら日本の未来はどうなるの?


未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)

世界で最も深刻な人口減少問題を抱える国

プロフィールにあるとおりわたしはエストニアの大学で社会科学を専攻している学生です。1月末から春学期が始まったのですが、今学期からわたしは Introduction to Demography (人口統計学概論)という授業を取り始めました。

卒業要件となっている取得単位を満たすために必要な授業でもあるのですが、それ以上に日本出身のわたしとしては興味を持たざるを得ない学問分野なんですよね。なんてったって世界で最も深刻な少子高齢化社会を抱えている国からやってきた人なわけで。

最初の授業では先生が「Demography とは何か」という基礎的な説明をしてくれたんですが、授業後半にいくつかのグループに分かれてちょっとしたディスカッションをする時間が与えられたんですね。WEBに公開されている人口統計のデータを参照して、興味深そうなものを見つけてディスカッションしましょう、みたいなお題です。

で、ちょっと面白かったんですが、その際にあるグループが「日本の人口減少問題」をピックアップしてましてね。彼らもやはり「日本=急激な高齢化と人口減少問題を抱えている国」と認識しているらしく、結構な数の人たちが「”高齢化社会”と聞いてまず連想する国が日本」くらいのイメージを持っているようなのです。

「え、少子高齢化なんてどの先進国も抱えている問題でしょ?」

「ヨーロッパも人口が減少しているんじゃなかったっけ? 日本に偏見があって言っているのでは?」

などという声が聞こえてきそうですね。いやいや、日本の高齢化や人口減少って、世界の国々のなかで最も急速に進行しているんです。ヨーロッパ諸国に比べてもはるかに深刻な未来が確定している国が日本なんですよ。

というわけで、授業での学習とは別に自分の出身国である日本の人口問題についても調べてみようかしら、というところにちょうど良さげな本を見つけたので、さっそく電子書籍版を購入してみました。こちらです。

未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)

未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)

 

(注:以降、同書からの引用箇所には "河合, No." と記します。"No." は電子書籍版のページ番号を表します)

 

人口が減る日本でこれから何が起こるか

株式や為替や仮想通貨の相場について未来予測をすることはなかなか難しいですが、「人口」についてはそうではありません。毎年一定数死ぬ人がいて、一定数新しく生まれる命があって、さらに生きている人はひとしく1歳ずつ年を取っていくわけですから、「全世界的な核戦争が勃発!」みたいな極端な事態が発生しない限り、「未来の人口動態」についてはかなり正確に予想することが可能です。

今回紹介する河合雅司・著未来の年表 人口減少日本でこれから起きることには、以下の予測グラフが掲載されています。

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(引用元:河合, No.83)

このような予測は何十年も前からあらゆるところで紹介されておりますので、いまさら驚く人もいないかと思います。むしろ、

「いまの日本は人口過多。半分の6000万人くらいでちょうどいいんじゃないの? 人口が減るのも悪いことばかりじゃないでしょ!」

みたいなのんびりした声もときどき聞こえてくるくらいです。

言うまでもありませんがそのような安易な楽観論は端からお話になりません。人口が減少に向かう過程において、「多くの高齢者を少ない若者が支える」という状況が不可避的に発生することを考慮していていないからです

日本の人口ピラミッドの推移(予想含む)

(1950年)


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(2018年・予想)

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(2050年・予想)

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 (引用元:https://www.populationpyramid.net/

上のグラフを見れば一目瞭然ですね。戦後まもなくくらいまではほぼピラミッド型だった人口構成が、現在は壺型、将来的にはさらに底辺がしぼんでいきます。リタイアした世代を支える現役世代の負担はどんどん重くなっていきます。

さて、このまま若者の人口が激減し、逆に高齢者の人口が激増することが確定しているとすると、日本社会にはどのような変化が生まれてくるのでしょうか? 河合氏は、日本の社会福祉制度などの現状と照らして未来を予測した「人口減少カレンダー」を作成しています。以下に引用します。

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(引用元:河合, No.224 - 225)

ごらんのとおり、どうやら日本の未来はそうとう暗いものになりそうですね。現時点でもすでに労働力不足などは体感的に危機を感じとれるくらいの状況になっているのではないでしょうか? 近い将来では、2024年には全国民の3人に1人が65歳以上という「超・高齢者大国」となり、社会保障費の膨張が凄まじい勢いで進んでいくことがほぼ確実となっています(河合, No. 834)

人口増加のためには1950年代初頭レベルの出生率が必要

「だったら子どもの数が増えるような政策をとったらいいのでは?」「子育てしやすい環境を整備して出生率を上昇させよう!」という提案をしている人はたくさんいますよね。現に安倍政権の政策がそうです。アベノミクスの「新三本の矢」には子育て支援政策が組み込まれ、「希望出生率を1.8にまで回復させる」ことを目標にしています(参照:「希望出生率1.8」とは言うけれど… 目標達成、険しい道|WOMAN SMART|NIKKEI STYLE

しかし河合氏によると、

ところが残念なことに、安倍政権のこうした懸命な努力すらあまり意味をなさない。あまり知られていないが、実は、合計特殊出生率が改善したとしても出生率は増えないからである。(中略)それどころか、反対に減っていく。

(注:原文の傍点は下線で代用した)

(河合, No. 211)

とのことです。これはどういうことなのでしょうか?

2013年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に出産する子どもの推計値)は1.43となっています(参照元:1.出生数、出生率の推移|平成27年版 少子化社会対策白書(概要<HTML形式>) - 内閣府)。河合氏によれば、現在の人口規模を維持しようとするにはこの値が2.07を超えていなければならず、出生率が3.0を超えてようやく人口増加に向かうとのことです(河合, No. 205)

したがって、こんご日本経済が奇跡の復活を遂げ、子どもを産む母親が激増し、安倍政権が目標とする希望出生率1.8をクリアしたとしても、依然として人口は減り続けることになるわけです。「人口を増やす」ために必要な出生率3.0というのは、高度経済成長が始まるよりも昔、まだまだ大家族がよく見られた1950年代初頭あたりの数字です。第一次ベビーブームにあった1947年には4.54だった出生率ですが、1952年には早くも3.0を割って2.98となり、以降一度として3.0を再び上回ったことはありません(参照元:同 - 内閣府

お年寄りがよく「わたしらの生まれた頃は子どもの数が多くてねえ。きょうだいが何人もいるのは当たり前だったんだよ」などと語っていたりしますが、そのくらいの勢いで子どもが生まれて初めて人口が増加に向かうということになります。

仮に第一次ベビーブーム並の出生率4.54を回復し、しかもそれを維持し続けられたとしても(まずありえない仮定ですが)生まれた子どもが労働力となるのは最短でも15年後、多くは二十数年後です。それを待つ間にももちろん高齢者人口は2042年のピークまで増大を続けていくわけですから、出生率の変動にかかわらず社会保障危機が不可避であることに変わりはありません。

人口危機をのりこえるための提案「戦略的に縮む」とは?

さて、日本はこの人類史上初の超・高齢化社会をはたしてのりこえることができるのでしょうか? 絶望的な未来予測を経て、河合氏が導き出した提案は「戦略的に縮む」でした。

どうせ縮まざるを得ないのならば、切羽詰まってから対策を考えるより、時代を先取りし、”小さくともキラリと輝く国”を自分たちの手でつくりあげたほうがいい。取り組むべきは、人口が少なくなっても社会が混乱に陥らず、国力が衰退しないよう国家の土台を作り直すことである。

(河合, No.1967)

お、本も佳境のパートまで来たところでやっと救いがありそうな文章が出てくるじゃないですか! と一瞬思ってしまったのですが、河合氏が知恵を絞って提示してくれた案の数々も「どっちみちこの先は地獄ですが、そのなかでも最善手を取るとなればこれくらいでしょう。もう他に方法はないんだから仕方がありません。あきらめてください」という感じなんですよね。

河合氏の「戦略的に縮む」提案とは、たとえば、

  • 「高齢者」を削減 ― 「高齢者」の定義を75歳以上とする。この年齢までは自活してもらう。
  • 24時間社会からの脱却 ― 24時間営業のコンビニ・宅配便の受け取り時間指定などの過剰サービスはやめよう。不便でもいいじゃないか。
  • 中高年の地方移住推進 ― 地方に成人の再学習向けの施設を作り、中高年に学んでもらおう。新天地で青春を取り戻そう。

などといったものです(河合, No.1999 - 2378)。要するに「現代的な意味での『豊かさ』は、もう無理なんだからあきらめましょう」「経済の縮小を受け入れ、ひたすら貧しくなる中でもなんとか工夫してやっていきましょう」という発想です。

河合氏の諸提案への賛否はともかく、日本に残されている選択肢はこの「戦略的に縮む」以外にないというのは同意せざるを得ません。ただ、いまの政権にそのような長期的な国家の生存戦略を立てられる能力があるでしょうかねえ…。たぶん今後出てくるのは「子どもをたくさん産んでくれるお母さんを、国で表彰してあげれば出生率が改善するのでは?」だとか「愛国心を育てることで子どもを産んでくれる家庭が増えるはずだ! 道徳教育を見直そう!」みたいな竹槍精神にもとづく政策案じゃないかなあ(笑)

最後に個人的な感想ですが、この本を読んで改めて「もう日本に戻るのは無しだな」という思いを強くしました。日本にいればわたしみたいな特別な能力を持っていない人間から先に悲惨な目に遭うでしょうからね…。お国のために自分の人生を犠牲にするつもりはさらさらありません。

未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)

未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)