エストニア共和国より愛をこめて

北欧に位置する人口130万ほどの小国・エストニアに暮らす大学生が、留学・観光・社会・市民生活などの話題を中心にさまざまな情報をお届けします。

エストニアで大道芸をやってみた―路上のエピソード集



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(タリン旧市街の入り口・ヴィル門)

路上アコーディオン奏者がお届けするほのぼのエピソード集

タリン市当局の許可証を取得し、路上アコーディオン奏者としてデビューしてからまもなく2か月半ほど経過します。以前も書いたとおり、この大道芸の収入だけでなんとか生活費を賄えてしまっております。

www.from-estonia-with-love.net

しかしこの稼業を続けられるのもせいぜい夏のあいだだけでしょうね。秋になって大学が始まればまた忙しくなるでしょうし、タリンを訪れる観光客も減りますし、そもそも路上で楽器を演奏するのが厳しいほどに寒くなってしまいます。北国ですから仕方がないですねー。

この仕事(?)の楽しいところは、単に好きなことでお金が稼げるということだけではなくて、タリンに住んでいる、またはタリンを訪れる多種多様な人たちとふれあうことができるということです。これが本当に楽しくてしょうがないんですよー。

さいきんやたら殺伐としたトピックが多い当ブログですが、今回はちょっとほのぼのとした話題をということで、「エストニアの地で大道芸人をやってみて体験した、ちょっと面白いエピソード」をいくつか紹介します。

「ジェンカ」を弾くと通行人たちはステップを踏み始める

一定の年齢以上の読者のみなさんは「ジェンカ」または「レットキス」と呼ばれるフォークダンスの曲をご存じなのではと思います。オリジナルはフィンランドの楽曲で、元のタイトル「Letka Jenkka」は「列になってイェンカ」という意味です。「イェンカ」というのはフィンランドの有名なフォークダンスの名称です。

(有名な坂本九ちゃんのカバーは "レットキス" が "Let's kiss" に聴こえる、という空耳から発展させたものです。さすが永六輔)


LETKISS Летка-енька за рубежом, 1965

タリンにはフィンランドからの観光客がたくさん訪れるので、芸人としてはエストニア人に比べてはるかにリッチな彼らを狙わない手はありません。彼らによろこんでもらえるように、この「ジェンカ」と、あともう一曲、読者のみなさんもおそらくご存じの「イェヴァンポルカ」*1をレパートリーに入れています。

わたしが大道芸をやっている場所は公園に面する通りの交差点の前で、タリンでももっとも人通りが多いところの一つです。世界遺産指定区域であるタリン旧市街の入り口でもあるので、フィンランド以外にもいろいろな国からの観光客が通りかかるところです。

交差点には信号があって、赤信号から青信号に切り替わるまで数十秒かかるので、信号が赤になるたびにたくさんの人が立ち止まります。信号が替わるのを待つ人々が増えてきたところで、わたしはおもむろにこの「ジェンカ」を弾き始めるんです。すると、信号待ちの人たちのうちの何人かがわたしの演奏に合わせてステップを踏み始めるんですよ(笑)これが本当に面白いんです。大人だけではなく、子どもたちもあの「右・右・左・左、前・後・前前前」のステップをやり始めます。学校で習うんでしょうか。

ただし信号が切り替わったらみんなすぐに横断歩道を渡っていってしまうので、投げ銭をもらいそびれることが多いというのが難点ですけれどね(中にはわざわざ次の青信号を待ってまでお金を入れに来てくれる方もいます。ありがたや~)。

ウォッカ瓶を片手にうろうろしているおじさま方

最近のように暖かい夏の夕方には、「ウォッカの瓶を片手にうろうろしている人たち」が公園によくいらっしゃいます。みなさんもタリンを30分もぶらつけば3人くらいは見かけると思います。エストニアでは公共の場所での飲酒は違法行為なんですが、法律なんぞどこ吹く風、という感じでベンチで酒盛りをやっていたりします。

で、彼らはたいていがロシア系の人たちなので、わたしがアコーディオンを弾いているのを見つけると、よくロシア民謡をリクエストしてくれるんですよ。

「『カリンカ』は弾けるか?」

「『カチューシャ』をやってくれないか?」

なぜか必ず「カリンカ」か「カチューシャ」です。「コロブチカ」*2や「百万本のバラ」*3なんかも弾こうと思えば弾けるんですが、いまだにリクエストされたことはありません。

リクエストに応えて弾いてみせると、なんかもうすごくよろこんでくれて演奏に合わせてしばらく歌ったり踊ったりして、曲が終わると「スパシーヴァ!!」と満面の笑みを浮かべて握手を求めてきて、コインを投げて帰っていきます。ロシア人の酔っ払いのおじさんたちはだいたいみんなそんな感じです。

エストニアは反ロシア感情が大変強いところなのでロシア民謡を大っぴらに演奏するのはちょっとはばかられるんですが、そこはわたしも商売ですからね。ロシア系っぽいおじさんが近づいてくるのが見えると、他の曲を演奏している途中でも「カチューシャ」にさっと切り替えたりしています(笑)

謎のヴァイオリン少女との邂逅

わたしが芸を披露しているタムサーレ公園には、わたし以外にも何人かの芸人がパフォーマンスをしに来ます。本来なら律儀に市当局からの許可証を取得しているわたしが最優先されてもいいわけですけれども(笑)そこは同業者どうし仲良くやりたいので、場所がかぶってしまったような場合にはわたしがちょっと移動してあげたりします。そうしているうちに各自うまいこと間隔を開けられるポジションに自然に付くようになったので、いまのところはぜんぜん問題ないんですけれどね。

で、わたしは彼らと「商売がたき」ではなく「同業者」として友好にやりたいので、自分のパフォーマンスを始める前に彼らの芸を見にいって、少し小銭を入れてから自分のポジションについて演奏を始めたりします。たいてい彼らのほうも芸を終えたあとにわたしのところに来てお返しの投げ銭をしてくれます(笑)

そんなタムサーレ公園にあつまる芸人たちのなかで最年少と思われるのが、たぶん9歳か10歳くらいのヴァイオリン弾きの少女なのでした。この子はほとんど毎日3~4時間、公園のなかの小道でヴァイオリン・ケースを広げて演奏しているんですよね。近くにはお母さんと思われる女性がずっと少女の演奏を見守っています。

演奏はかなり上手です。とても大人びた表情で、クラシックの小品を何曲も何曲も繰り返しています。ヴァイオリン・ケースにはなぜかアンドレ・リュウのDVDのケースが立てかけてあって(アンドレ・リュウが好きなのかな??)健気な少女がひとりヴァイオンを奏でているということで、通りかかる市民からかなり投げ銭をもらっています。

ヴァイオリニストを目指して自らの意志で修行がてらパフォーマンスをしているのか、プロの演奏家に育てたいお母さんの意向なのか、またはお家が経済的に苦しくて小さいうちからお金を稼がざるを得ないのかはわかりません。

さきほど述べたように、わたしはこの少女にも毎回のように投げ銭を入れてから自分の演奏に向かうのですが、コインを入れると少女はニッコリ微笑んで「スパシーヴァ!」と返してくるので、ロシア系の子なんでしょうね。

少女のほうも帰り際に毎回わたしのところに来てくれて、お返しのつもりか小銭を入れていってくれます。わたしのほうも「スパシーヴァ!」とお礼をいうと、サムズアップをしてくれて「ダスヴィダーニャ!」と去っていくのでした。

ある日、わたしがいつものようにレパートリーのひとつ、エストニア人なら誰もが知っている「Curly Strings」というバンドのヒット曲「Kauges Külas」をアコーディオンで演奏し終えたときに、少女とお母さんがやってきたんですね。


Curly Strings - Kauges külas

お母さんのほうが「ちょっと聴いてあげてくださいね」とわたしに言うと、少女がこの曲をバイオリンで弾き始めたんですよ。それがまた、味わいのある立派な演奏をするんですよね。ワンコーラス弾き終えたところでわたしもアコーディオンで加わって、即興のセッションとなったのでした。

そして短い共演を終えた後、お互い「スパシーヴァ!」「スパシーヴァ!」「ダスヴィダーニャ!」「ダスヴィダーニャ!」とあいさつを交わしたのちに、少女とお母さんは去っていきました。

この小さな同業者さんが将来プロフェッショナルを目指しているのかどうかはわかりません。でももしそうだとしたら、彼女の憧れ(なのか??)であるアンドレ・リュウ並に成功してくれることを心から祈りますね。公園の小道といわずに大コンサート・ホールを満席にしてもらいたいものです。

 ***

こんな感じで、夏の間は毎晩(といっても夜も明るいんですが)タムサーレ公園を訪れるタリン市民、またはよそからの観光客の皆さんとささやかなふれあいを続けています。大道芸中のエピソードはまだまだたくさんあるので、またそのうちに新しいネタを披露しますね。

*1:日本ではなぜか「ロイツマ」として知られている曲 https://www.youtube.com/watch?v=iLhk216W37k

*2:いわゆる「テトリスのテーマ」

*3:ただしロシア民謡ではなくラトヴィアの歌謡曲がオリジナル