エストニア共和国より愛をこめて

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群衆心理はこうして暴走する! 大阪リンゴ集団強奪事件

大阪で発生した「群集心理の暴走」の実例

前回のこちらの記事。けっこう多くの方に読んでいただきました。

www.from-estonia-with-love.net

短くまとめると、

「どこの国の国民だろうが、人は集団になると普段では決してしないような行動に出ることがある。集団心理が暴走した例は日本にもたくさんある。日本人は冷静だからそういった事件は起こさない、なんてのは嘘です」

という内容の記事だったんですが、

「いや、これらの例(ドミノ・ピザSuica騒動など)は『不当な扱いを受けたことに対するクレーム』だろう。中国人が暴れた例と一緒にするな」

といった内容の指摘がありました。いやー諦めないですねえ(笑)

実は「新千歳空港で騒ぎを起こした中国人客もかなり不当な使いを受けていたようなのだが」という証言が上がってきていたりするのですが、まあそこはちょっと置いておきましょう。ということで今回は、

「『不当な扱いを受けたことに対するクレーム』という場合を除いても、群集心理によって暴走してしまうことがあるのは日本人も同じだよ」

という例として、1984年に発生した「大阪・天満橋駅前リンゴ集団強奪事件」について紹介したいと思います。

あっという間に消失したリンゴの山

この事件については、昨年大学の「社会学概論」の授業で課題として出されたレポートの題材として、ちょっと調べたことがあるんですよ。「社会心理学」の回だったんですが、日本の珍しい事例を取り上げたらエストニア人の先生が面白がるかなと思いまして。

とはいえ、この事件については「むかし見た何かのTV番組のなかで数十秒間くらい触れられていたのを覚えている」程度で記憶があやふやだったのですが、ネットでいろいろ検索したらかろうじてこの件に触れた文献がありました。以下に引用します。

昭和59年4月23日、大阪・京阪天満橋駅前。青森からトラックで行商にきた人が、はるばる運んできた赤いりんご80箱をトラックの荷台に積んで売っていた。
桜の季節で、駅前は近くの桜の名所、造幣局の「通り抜け」に訪れた人たちでにぎわっていた。
事件はその人が、電話をかけるため目を離したわずかなすきに起こった。
リンゴの山に、「試食をしていただいて結構です」と垂れ幕がしてあった。それをみた人が、つい一つ、手にした。
「リンゴはただやで」ということになり、1個どころか何個も手にする人が出た。
「押さんといて」。群集心理に火がつきトラックの前には身動きもできない人だかりがした。興奮してかリンゴの山にのぼり、人がきを目がけてボンボンとリンゴを投げる背広姿の男の人もいたという。
千数百個のリンゴはアッという間になくなってしまった。
かえってきた青森の人は、ぼうぜんとした。最初は何が起こったかわからない。

 

引用元:隆替の年月 リンゴ事件1 (56) 「産経関西(産経新聞大阪本社情報サイト)」(WEB魚拓)

このように、記事中では事件についてのごく簡単な概要しか記されていないですけれど、ちょっと背景を考察してみましょうか。

まず「『試食をしていただいて結構です』という垂れ幕がしてあった」という部分です。行商の兄ちゃんがトラックでリンゴを売っていたよ、「試食OK」って書いてあったよ、ということですから、リンゴを一口サイズに切ったものを皿に盛って置いておいたか、またはもっと気前よくて「試食用にひとつ丸ごとあげるよ、気に入ったら買ってね」などと宣伝していたのか、そんな程度でしょう。

そして、行商人がトラックを離れているあいだに、誰かがリンゴをひとつ手に取ったわけですね(先に述べた、わたしが大昔に見たTV番組では『ちょっと味見してみよう』と言って最初のひとりがリンゴを手に取った、ということになっていました。記憶が曖昧ですが)。

以降は想像になってしまいますが、おそらく事実とそんなに離れていないかと思います。最初のひとりがリンゴを取ったのを見て、「あ、これ味見できるんだ、じゃあわたしも」とリンゴの山に手を伸ばした2人めの人物がいるのでしょう。で、さらにそれに釣られた3人め、4人めが「リンゴの試食か。ではわたしもひとつ」などと同様にリンゴを手に取り……という感じで、次第にトラックの周りに人だかりが出来ていったのでしょうね。

それ以降にやってきた人々となると、もう「花見客で賑わう駅前の通りに停められたトラックに人々が群がり、次々にリンゴを持ち帰っている」という光景しか目に入らない状況だったんじゃないかと。そこから先は記事中で描写されているとおり、群衆心理の暴走に任せるまま、あっという間にリンゴの山は跡形もなく消えてしまった、と

常識的に考えれば、行商のトラックに「試食をしていただいて結構です」と書いてあったのならば、それは「味見をして気に入ったら買っていってください」という意味にしか取れないですよね。リンゴを持っていった人たちも平常時ならごくごく当たり前に正しい判断が出来ていたと思います。しかし事件当時は人々が冷静な判断が取れなくなる程度の興奮が現場を支配していたのでしょう。

この事件って、下に掲載した『社会的ムーブメントはこうやって起こるのだ!』としてよく紹介される映像で起こっていることと原理は同じですよね。楽しいダンスではなくて集団強奪という悪いほうに行っちゃったわけですが。

日本人は道徳意識に著しく欠ける…のか?

「不当な扱いを受けたことに対するクレームだから」などという擁護が入り込める余地のない、「行商人が場所を離れているうちに押し寄せた群衆がリンゴを強奪した」という例ですが、いかがでしたか。「大阪人ならいかにもやりかねんな」とか思いました? または事件そのものをどうしても信じられなくて「日本人は中国人と違ってモラルが高いからこんなことはしない!! 捏造ニュースだろ!! 嘘つき産経新聞!!」とか怒っちゃう人がいたりして。

しかしそうではなくて、何度も繰り返しているとおり、

「人間は集団になると平常では考えられないような行動をとることがある」

という、群集心理の暴走の例なのです。どこの国でも、どの社会でも発生しうる現象に過ぎません。

 さらに。もしも「日本人の社会規範レベル」について、この「リンゴ集団強奪事件」や、先日の記事で挙げたような騒動の事例のみで判断してよいとすれば、

「日本人は集団でリンゴを強奪したり、ピザが出てこないくらいで大騒ぎしたり、たかがSuicaの販売に大行列ができたくらいで物を壊して暴れる人間が出現し、新作ゲーム機の発売日における店頭の混雑を理由に店員を罵倒したりなど、集団になると冷静を失って粗暴になるどうしようもない国民。先進国ってレベルジャネーゾ!!」

などと言うこともできてしまいそうですよね(笑)しかし賢明なみなさんはきっとこのような見解に至ることでしょう。

「そういった特殊な部類の事件を持ち出して、日本人全体が公衆道徳に欠けるかのように言うのはおかしいだろう」

となると、毎度毎度ワイドショーやネットのタブロイド的ニュースサイトでおもしろおかしく取り上げられている訪日中国人観光客の話題について、われわれはどういうスタンスを取るべきでしょうか。わざわざ説明するまでもないですよね?