エストニア共和国より愛をこめて

北欧の小国に留学中の大学生が当地への留学や観光、社会生活についての情報などをお届けします

どうしてエストニアのマイナンバー制度は成功しているのか

エストニアの「国民IDカード」は超便利!

日本のみなさん。「エストニア」という国名を聞いて、まっさきに連想するのはどんなことですか?

おそらくいちばん最初に出てくるのは元・大関把瑠都、そしてその次あたりに思い浮かぶのが「電子政府の国」だとか「マイナンバー制度の国」とかいったようなIT立国のイメージなんじゃないでしょうか。

一昨年から日本でもマイナンバー制度が導入されていますが、その際にニュース番組で「マイナンバー制度が成功している国の例」としてエストニア電子政府のことがたびたび紹介されていたらしいということを聞きました。

日本のマイナンバーに相当するのがエストニアの「国民ID」の制度なんですけれども、エストニアの住民であるわたしももちろんこのIDが割り当てられていて、情報が組み込まれたデジタルIDカードを所有しています。

で、実際にこのカードを1年半使ってみた感想なんですけれど、やっぱりこの制度めちゃめちゃ便利です。どこに行っても1枚のカードで済んでしまうわけですからね。

たとえば「体調を崩して病院にかかるとき」なんて便利ですよ。日本だったら保険証、病院の診察券、薬局のカード、「おくすり手帳」なんかをいちいち用意しなければいけませんが、エストニアだったらすべてが普段持ち歩いているカード1枚で済んでしまうわけです。とくにカルテや薬の処方履歴がすべての病院や薬局で共有されているというのはとても便利ですね、医者にかかるごとにいちいち説明する必要もないわけで。

「あなたはコンピューターを買収することはできない」

エストニアで成功を収めている国民ID制度ですが、いっぽうで日本のマイナンバー制度はなんかいろいろグダグダみたいですね(笑) あと、日本では保守的な人たちが多いからか、マイナンバー制度そのものに反対している人もけっこういるんだとか。特に個人情報の保護について気にする人が多いみたいです。

日本の場合、この種の「国民のデータを一元化して管理するシステム」について、

「政府が国民の個人情報を握って監視する制度」

みたいな感じでとらえられているんじゃないかと思うんですよね。なんか偉い人たちが国民の情報を握って管理しようとてしているぞ、みたいな。

エストニアの場合、この部分が根本的に違います。エストニアの市民にとって電子政府は、

「行政が大幅にスリム化・効率化されるだけでなく、国民が政府や政治家や公務員を厳しく監視できる制度」

だと受け止められています。「電子政府制度は、市民生活を便利にするだけではなくて、権力者に悪いことをさせないための制度でもある」というメリットについても認識されているわけです。

日本ではこういう発想は出てきませんよね。日本では「お上が民衆を支配するもの」という考え方が根強いですから。しかしエストニアの人々は、富裕層や権力者への監視のためにこの制度を役立てていたのでした。「国民IDの導入でめっきり汚職や脱税が減りましたね~」とみなさん電子化の成功を喜んでいますよ。

エストニアの前大統領で、電子政府推進のスポークスマンといっていい立場にあったトーマス・イルヴェスの言葉に、

「あなたはコンピューターを買収することはできない」

というのがあります。

ロシアをはじめ旧ソビエト連邦を構成していた国々には、いまだに政治家や役人ヘの贈収賄が習慣として残っていたりするのですが、エストニアでは電子政府の導入以降、汚職が激減しました。銀行口座が国民IDと紐づけられ、さらに公職者の給料がすべて一般公開されているので、賄賂を贈るのも至難の業になっているわけです。現在、エストニア旧ソ連構成国のなかで最も汚職の少ない、クリーンな国になっています。

「個人情報の漏洩は不安じゃないの?」

日本のみなさんが特に気になりそうなのが「エストニアの人々は、個人情報が漏洩する恐れを心配していないのか?」って点ではないでしょうか。

この点についても、やはり答えは「不安の声はほとんど聞かれない」「情報セキュリティーについての国民の信頼度はかなり高い」となりますかね。

だって、データベースが一元化されているわけですから、個人情報を不正にのぞき見なんかしたら一発でばれちゃうじゃないですか。当然仕事は即クビになります。

「たとえ個人情報への不正なアクセスがあったとしても、どこの誰が何時何分何秒にどこの端末からアクセスしたのかが一発で特定できるため、むしろ従来のデータベースより安全である」

ということになります。旧来のデータベース管理のほうがよっぽど危険ですよね。

データベースの一元化がどうの、という前に、日本ではそもそもデータが電子情報として管理されることそのものに嫌悪感がある人も多そうですね。

「そんなわけのわからん電子だのなんだのより、紙の書類と印鑑のほうがずっと安全だ!」

と考えている人もいるかもしれないですれど、個人情報の保護を気にするんだったら紙のデータのほうがよっぽど危険だと思いますよ、こっそり盗み見てもログもなにも残らないんですから。

ここまで書いて思いついたんですけれども、日本のマイナンバー制度が国民から不評ばっかりってのは、日本でクレジットカードが普及していなくていまだに現金が使われているのと同じ理由だったりしませんかね。「電子だのなんだの、そんな形のないものは不安だ。物理的な紙の書類じゃないと信用できない!」みたいな。

以前、こちらの学生に「日本ではいまだにFAXを使っている人がいると聞いておどろいた。なんのためにFAXを使っているの?」と尋ねられたことがあります。「日本のオフィスではまだ紙の書類が使われているから」と答えたら、「紙か! 紙使ってるのか!」とようやく納得してくれたのでした。

まあそういった「物理的な安心感」を求める気持ちはわかるんですが、あまり新しいものを拒否していると、日本はますます世界の動きについていけなくなるんじゃないかと心配になりますね……。

エストニア電子政府政策を知るための本

ここまで読んでくださったかたのなかには「エストニア電子政府・国民ID制度についてもっと知りたい」「個人情報保護がどの程度徹底されているか知りたい」というマニアックな人もいるかもしれません。そういうあなたにはこちらの書籍をおすすめします。北欧の小国が高度なITを武器に奮闘している様子をつかんでいただけるかと思います。

未来型国家エストニアの挑戦  電子政府がひらく世界 (NextPublishing)

未来型国家エストニアの挑戦  電子政府がひらく世界 (NextPublishing)